第1回 アート・イン・ビジネス研究会|祇園祭における祝祭性とアート

参考文献リスト— 祇園祭・陰陽道・祝祭性・記号論 —

Ⅰ. 祇園祭・祇園社(八坂神社)・御霊信仰に関する文献

祇園祭の起源・構造・地域社会との関係を理解するための、日本語文献の一例である。 祭礼研究や御霊信仰史を併せて参照することで、第1回研究会で議論された 「疫病鎮静」「都市空間と祝祭性」の背景を立体的に把握できる。

  1. 下坂 守『中近世祇園社の研究』法藏館,2021年. ― 中近世の祇園社(現・八坂神社)を史料に基づき包括的に論じた基礎研究。
  2. 真弓 常忠 編『祇園信仰事典』戎光祥出版,2002年. ― 祇園信仰・祭礼・全国の祇園祭の事例を網羅的に整理した事典。
  3. 京都祇園祭山鉾連合会 編『京都祇園祭の山鉾行事 歴史資料調査』京都祇園祭山鉾連合会. ― 山鉾行事に関する史料集であり,巡行・鉾の構造・町の主体性を考える手がかりとなる。
  4. 井上 満郎 ほか「御霊信仰の成立と展開」関連論考. ― 疫病鎮静と御霊信仰,都市空間との関係を扱う歴史研究。祇園祭の宗教的背景を理解するために有用である。

Ⅱ. 陰陽道・暦・疫病鎮静と祭礼

第1回研究会で論じられた「神泉苑」「満月」「火と水」「66本の鉾」などのモチーフは, 陰陽道・暦・風水の思想と密接に結びついている。以下の文献は,その思想的背景を知るための導入口となる。

  1. 戸矢 学『陰陽道とは何か ― 日本史を呪縛する神秘の原理』PHP新書,2005年. ― 陰陽師・安倍晴明,暦,風水,御霊信仰など,陰陽道の基礎を解説する入門書。
  2. 加門 七海 監修『陰陽師の日本史』宝島社,2024年. ― 古代から近代に至る陰陽師の歴史と,権力者との関係,呪術実践の系譜を概説する。
  3. 細井 浩志『日本史を学ぶための〈古代の暦〉入門』吉川弘文館,2019年. ― 古代・中世の暦と祭礼・政治との関係を扱い,旧暦・満月と祭りの関係を考える際の基礎文献となる。

Ⅲ. 祝祭性・儀礼・プロセッション理論(人類学・宗教学)

祇園祭の「祝祭性」や「プロセッション(巡行)」「リミナリティ」「コミュニタス」を理論的に捉えるための 代表的な英語文献である。第1回研究会で扱われた 「神事の核と祝祭性のバランス」「都市空間の再聖化」という視点と接続しやすい。

  1. Victor Turner, The Ritual Process: Structure and Anti-Structure, Aldine / Cornell Univ. Press, 1969. ― 「リミナリティ」「コミュニタス」の概念を提示した古典的研究。祭礼を通じた社会構造と反構造の往復運動を論じる。
  2. Victor Turner, From Ritual to Theatre: The Human Seriousness of Play, PAJ Publications, 1982. ― 儀礼と演劇の連続性を扱い,祭礼におけるパフォーマンス性・芸術性を考察する際の理論的枠組みを提供する。
  3. Catherine Bell, Ritual Theory, Ritual Practice, Oxford University Press, 1992. ― 儀礼を単なる象徴の集積ではなく,権力関係や身体実践として捉え直す理論書。 祇園祭の神事と観光・商業的側面のバランスを考えるうえで示唆に富む。

Ⅳ. 音・音響祭祀・聴覚文化

第1回研究会では,祇園囃子のリズムや音響が「空気中の邪気を祓う」音響祭祀として機能することが指摘された。 祝祭空間における音・リズム・身体の関係を理解するうえで有用な文献群である。

  1. 小泉 文夫『日本の音 ― 伝統音楽の世界』音楽之友社, 2017. ― 日本の伝統音楽とその音律・リズム・宗教的背景を概説する。祭礼音楽理解の基礎として有用。
  2. Steven Feld, Sound and Sentiment: Birds, Weeping, Poetics, and Song in Kaluli Expression, University of Pennsylvania Press, 1982. ― 他文化の事例だが,音環境を通じて感情や共同性が形成されるプロセスを描く音の人類学の古典。
  3. R. Murray Schafer, The Soundscape: Our Sonic Environment and the Tuning of the World, Destiny Books, 1977. ― 都市や自然環境を「音の風景」として捉える視点を提示。祇園祭の「都市音響」としての祇園囃子を考える際の参照枠となる。

Ⅴ. 記号論・象徴の記号学・都市と祝祭

山鉾・稚児・紙垂・しめ縄・色彩・数(66・11)といった要素を 「象徴の体系」として読み解くための基本文献である。 第1回研究会の「三角数」「数理」「象徴の記号学」といった議論と接続しやすい。

  1. Ferdinand de Saussure, Course in General Linguistics, 1959, 現在の版は2011. ― 言語記号論の古典。記号=能記/所記という枠組みは,祭礼の象徴を分析する際の基礎となる。
  2. Roland Barthes, Mythologies, Seuil, 1957. ― 日常的な対象がどのように「神話」として意味を帯びるかを論じる。祇園祭の山鉾や祭具の「神話化」を考えるための理論的参照点。
  3. Victor Turner, The Ritual Process(前掲) ― 祭礼における象徴の多義性・多層性を具体例とともに論じる。

Ⅵ. 利用上の注意と読み進め方

※上記は第1回研究会「祇園祭における祝祭性とアート」で扱われたテーマに関連する文献の一例であり, 網羅的リストではない。祇園祭そのものを深く知りたい場合は,Ⅰの祇園祭・祇園社関係文献を, 祝祭性・象徴・音響など理論面を深めたい場合は,Ⅲ〜Ⅴの文献を軸に読み進めるとよい。

また,実地の観察(巡行の見学・八坂神社での神事の観察)と併読することで, 「テキストとしての祭り」と「身体経験としての祭り」を往復しながら理解を深めることができる。